「シュンは――自分の役目は済んだと言って、どこかに行ってしまったよ」
突然、今度はヘリオスが、ヒョウガの言動以上にシュンには理解し難いことを言い出します。

太陽神の言葉に、ヒョウガは眉をひそめました。
「役目が済んだ……とは……」

「済んだだろう? 君の目は光を取り戻した。シュンにできることはもう何もない」
ヘリオスは、まるでその場にシュンがいないかのように、ヒョウガにそう告げました。

まさか、地上の出来事すべてを見知っているはずの太陽神までが、シュンの姿を見失っているはずがありません。
では、太陽神は、わざと、その場にシュンがいないものとして振舞っていることになります。
なぜ彼がそんなことをするのか、シュンにはまるで訳がわかりませんでした。

「すべて、シュンのおかけだ。これまで、俺を支えてくれた分、俺はシュンに報いてやりたい」
「それは無理だ。シュンが求めているのは、君の愛だけだから」

「…………」
太陽神の言葉に、ヒョウガの表情が曇ります。

「気付いていなかったとは言わせない。シュンのこれほどまでの自己犠牲が、愛でなくて何だというんだ? だが、シュンの欲しいものを、君はシュンに与えることはできないんだろう?」
「それは──」

そんな残酷な答えをヒョウガにはっきり言わせるための、これは太陽神の演技なのかと思うと、シュンはふいに泣き出したくなってしまったのです。
目が見えるようになったヒョウガの前で涙を零すことは、もちろん、シュンにはできませんでしたが。

「シュンは、君とメロペ姫が幸せでいる様など見たくはないだろう。今頃、どこかで泣いているのだろうが――。追わないでいてやるのが優しさというものだ」
「馬鹿な。では、俺は、シュンに何も報いてやれないというのか」
「シュンを愛することはできないんだろう?」
「…………」

ヒョウガは返答に窮しました。
ヘリオスの言うことは、ヒョウガ自身にはどうすることもできない事実でした。

シュンが求めているものを、ヒョウガはシュンに与えてやることはできません。

それは、残酷で、確かな、けれど、事実でした。






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