ヒョウガは、キオス島の浜で出会ったその時から、片時も忘れることのなかったメロペ姫の姿を、再び視界に映しました。
姫への恋は、今も、初めて出会った時と同じだけの強さをもって、いいえ、むしろ、以前にも増して、強く激しく燃えていました。

けれど――。
けれど、ヒョウガは、その大切な人に向かって、言ったのです。

「俺の愛は姫だけのものだ」

辛い決断に呻吟するように。

「だが、俺の命は──俺の命は、シュンのものだ。シュンがいなければ、俺はとっくの昔に死んでいた。身体だけじゃない。心も、憎悪と絶望で死んでいたに違いない。俺が絶望の中にいた時、俺を支えてくれたのはシュンだった。シュンの手と、シュンの声と――」

自分を支え続けていてくれたものを思い出し、ヒョウガは一瞬、ひどく切なく、そして懐かしい気持ちになりました。

「姫は、遠くで俺を支えてくれた。離れていても、思っていられる。しかし、シュンは──シュンが側にいてくれないと、俺は生きていられない。俺の命はシュンのものだ」

それを恋とは言わないはずです。
自分が恋をしているのは、今、自分の目の前にいる、澄んだ瞳と清楚な姿を持った人ひとりだけだと、ヒョウガには自信を持って断言することができました。

けれど、ヒョウガにとって、シュンはそれ以上のものでした。
それ以上のものになっていたことに、ヒョウガは初めて気付いたのです。


ヒョウガのその言葉を聞いた“メロペ姫”が、ついにこらえきれなくなって、その瞳から涙を、唇から声を零します。

「ヒョウガ……」

その声は、暗闇の中で、いつもヒョウガを支えていてくれた人のものでした。






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