二人だけのリハビリが続いた。

僕は、食事中に幾度かグラスを倒して、テーブルの上を水で濡らした。
氷河は、小言ひとつ言わずに、その後始末をしてくれて――でも、それから、食事の時間は、僕を最も緊張させる時間になった。

「氷河、僕、こぼしてない?」
「ああ」
「嘘ばっかり」
「幼稚園児よりはましな食べ方をしている」
「氷河……」

氷河は何も言わないけど、おそらく、僕はひどくだらしのない食事の仕方をしているんだろう。
そう思うと、ふいに泣きたい気分になった。

僕が食欲をなくして、ナイフとフォークを皿の上に置くと――それだって、ちゃんと置けているかどうかわからない――氷河の口調がやわらかくなった。
「冗談だ。ちゃんとしてる」

「…………」
それでも不安で、食事を続ける気になれない僕に、氷河はとんでもないことを言い出した。

「俺が食べさせてやろうか」
「え?」

僕が氷河の親切(?)を辞退するより先に、氷河は僕の隣りに椅子を持ってきてしまっていた。
そして、言った。
「ほら、あーんしろ」
と。

驚くなと言う方が無理だと思う。
氷河が僕に給仕をしてくれるなんて、本当に冗談みたいな話だ。

「氷河、僕、子供じゃないんだよ!」
「まあ、そう言わず」
「…………」

氷河の声が、何だか楽しげに弾んでいるように聞こえる。
僕は、恐る恐る、氷河に言われた通りに口を開いてみた。

「あ…ーん」

ソテーされたアスパラガスは、妙に甘く感じられた。






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