そんな日々が、僕は楽しかった。

氷河は本当に、信じられないくらい世話好きで――優しかった。


以前の氷河は――僕の知っている氷河は――何でも億劫がって、面倒くさがりで、日常生活に関することはほとんど人任せだった。

氷河や仲間たちのためにお茶を入れるのは僕の役目、おやつの調達は星矢の仕事。
闘いのない日にはいつもぐうたらしていて、氷河は紫龍に小言を言われてばかりいた。

闘いだって、本当に自発的に参加していたのかどうかわからないくらいだった。
僕が『行こう』と言わなければ、氷河は闘いが始まったことに気付かないまま、いつまでも城戸邸でひとり、どこか遠くを眺め続けていたかもしれない。

そして、僕は、そんな氷河が時折、僕に向けるあの眼差しが恐かった。

目が見えなくなったせいで、僕があの視線を“見る”ことができなくなったのではないと思う。
あれは、目を閉じていても感じられるほどに強い視線だった。

でも、今の氷河は本当に優しい。
子供みたいなドジをする僕に苛立った様子も見せず、根気良く世話を続けてくれる。

僕を庇いきれなかったという罪悪感を感じているにしても、それは献身的だった。
僕が以前抱いていたイメージ通りの氷河なら、とうの昔に癇癪を起こして投げ出しているはずのことも、今の氷河は淡々と処してしまう。
僕は、意外の感を拭い去れずにいた。

以前には、想像できなかった。

僕が何かに躓いて転んだだけで、すっ飛んできて、
「大丈夫か? 痛かったか? どこかぶつけたとこはないか?」
そう言いながら、僕を抱き起こしてくれる氷河、なんて。

「平気。ごめんね、僕、いつまで経っても慣れなくて」
「そんなことは気にするんじゃない」
そんなふうに慰めてくれてる氷河、なんて。


僕は、ずっとこのままでいたいと、思い始めていた。






【next】