暑かった夏が過ぎようとしている。 闘いのない平和な日々の連続に、城戸邸に起居する青銅聖闘士たちは、最近、少々退屈を感じ始めていた。 闘いのさなかには、早くこの闘いが終わってくれればいいと思っているのに、平穏な日々の中では、何かが――刺激のある何事かが――起こってくれないものかと願ってしまう。 人間というものは、往々にしてそういうものであり、それは、聖闘士といえども変わりはない。 だが、わざわざ待ち望んだりしなくても、人が生きて日々の暮らしを営んでいれば、いずれ何らかの事件は向こうからやってきてくれるものである。 そして、その事件が、胸躍るような冒険ではなく、頭を抱え込みたくなるようなトラブルであることもままあるのだ。 むしろ、後者であることの方が多いのが、人生というものだろう。 その日、青銅聖闘士たちは、城戸邸のラウンジのセンターテーブルを囲んでのんびりと、他愛のない会話を交わしながら、過ぎ行く夏を見送っていた。 アンドロメダ星座の聖闘士が、ふいに、 「あ、いけない」 と言って、腰掛けていたソファで、その座り方を変えるまでは。 瞬以外の青銅聖闘士たち――すなわち、星矢、紫龍、氷河の3人――は、それを見て、ぎょっとしてしまったのである。 それまで、きっちり膝を揃えてソファに腰掛けていた瞬に、急にがばっ☆ と脚を広げられてしまったら、それは、星矢たちでなくても驚いていただろう。 瞬の左右の脚が作り出す角度は、ほぼ100度。 瞬との付き合いが長い人間の認識では、それは、ありえない角度だった。 なにしろ、椅子に腰掛けている時の瞬は、これまではいつも、きっちりと脚を揃えているか、たまに脚を広げていることがあっても、膝と膝の間に拳ひとつ以上の隙間を作ったことがなかったのである。 瞬の両脚の形成角度は15度が上限だった。 |