翌日、暇を持て余していた星矢は、星の子学園に出掛けていった。 自分と同程度の精神年齢の子供たちに遊んでもらうために。 退屈な日々の鬱憤を、それで少しは晴らすことができたのか、上機嫌で城戸邸に戻ってきた星矢は、ラウンジのソファに身体を投げ出すなり、 「瞬ー、喉渇いたー! お茶飲も、お茶! 俺、ポカリなー」 と、瞬に向かって大声で言ったのである。 イオンサプライドリンクのどこがお茶なのかという突っ込みはさておいて、星矢のそういう振舞いは日常茶飯のことだった。 「俺はアイスコーヒー」 「アイスのウーロン」 星矢に便乗して、氷河と紫龍も自分のオーダーを瞬に告げる。 が、オーダーを受けた肝心の瞬は、そんな仲間たちの顔を見詰めているばかりで、掛けていた椅子から、いっかな腰をあげようとしない。 フットワークの軽い瞬の、いつにない反応の鈍さに、瞬の仲間たちは、胸中で首をかしげることになったのである。 「瞬、どうしたんだ? お茶飲もうってば」 星矢に再度の催促を受けた瞬は、僅かに口をとがらせた。 「ずっと不思議に思ってたんだけどね。どうして、いつも僕がお茶係なの?」 「どーしてって……」 改まって瞬に問われ、星矢は一瞬、答えに窮した。 どーしてもこーしても、それは、いつの間にか、そういうことになっていたのだ。 「ま、ムサい男が運んできたお茶よりは、可愛いウェイトレスの持ってきてくれたお茶の方がおいしく飲めるからなんじゃねーの?」 とりあえず、当たり障りのない――少なくとも、星矢はそう思っていた――答えを口にしてみる。 そこに紫龍が、横から口をはさんできた。 「そう言えば、男女雇用均等法が施行された頃、それまで来客へのお茶出しを女子社員にばかりやらせていたどこぞの上場企業が、その仕事を、キャリアを積んだ女性じゃなく、ヒラの男性社員にやらせて、男女平等企業のイメージを作ろうとしたところが、取引先の客たちに不評で、すぐにやめてしまったという笑い話があったな」 「客の気持ち、わかるなー。一輝がいれてくれたお茶なんて、飲めって脅されても、飲みたくねーもん、俺」 「同感だな」 「氷河の場合は、毒が入ってる可能性大だしな」 氷河は、一輝にとって、なにしろ、大事な弟をたぶらかしてくれた大悪人である。 笑い話ではなく、その可能性は大だった。 もっとも、それ以前に、一輝が氷河のためにお茶の準備をすることなど、万が一にもありえない事態だったが。 「なっ、だから、ここは可愛い瞬チャンの出番なわけさ」 これで結論は出たと言わんばかりに明るい笑顔になった星矢への、瞬の返答は、 「可愛いって言わないでよっ! ──じゃない、言うなっ!」 という怒鳴り声だった。 「…………」×3 途端に、平和でのどかだった城戸邸のラウンジは、緊迫した空気に包まれた。 |