翌朝、城戸邸には、平和が戻ってきていた。
瞬はいつもの通り、仲間たちのためにコーヒーをいれ、小麦色に焼きあがったトーストを彼等の前に置く。

昨日からずっと喉が渇いたままだった星矢は、戻ってきたこの日常を心底から喜んで迎え入れた。


「でもさ、紫龍。男らしさがどうこう言ってたけど、瞬の奴、夕べは、それがあったりまえのことみたいな顔して、氷河の部屋に入っていかなかったか?」
「日課だからな」
「当然、することは一つだよな」
「日課だからな」
「そうなったら、もちろん、瞬はいつも通り“下”だよな?」
「日課だからな」
「男らしくなりたいんなら、最初に、そーゆー自分を改めようって考えるもんじゃないのか?」
「瞬は詰めが甘いからな」

「…………」
星矢は、瞬の主張する男らしさは、どこか致命的な矛盾をはらんでいるような気がした(事実、はらんでいた)。
だが、それを指摘してやろうという親切心は、星矢の中には湧いてこない。
「ま、いっか。何はともあれ、人間、自然にしてるのがいちばんだし」
星矢は、瞬の男らしさ追求などのために喉を干上がらせるような事態は、二度と経験したくなかったのである。

氷河と瞬の関係が自然の摂理にのっとっていないことは紛う方ない事実だったのが、紫龍もまた、星矢の意見にクレームをつける気にはならなかった。
いつもの通りにのどかな朝の風景の中で、彼は“平和”の価値を思い知ったばかりだったのである。






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