それは、さほど長い時間ではなかったのである。 氷河と瞬が恋人同士でいた時間は、狭い意味で解釈するなら、たった一晩だけだった。 互いに好意を抱き合っていることに、うっすらと気付いてはいた――ような気はする。 それでも、その時まで、氷河は瞬に、愛を求めたことも、言葉を求めたことも、行為を求めたこともなかった。 最後の闘いが始まる日の前夜、 「なんとなく――こうしておかなきゃいけないような気がして……」 そう言って、氷河の部屋にやってきた瞬と、氷河は肌を合わせた。 二人が二人として過ごした時間はその夜だけだった。 そして、その夜、氷河は、不吉な予感など微塵も感じていなかった。 それまでと同じように、自分たちは、生きてこの場所に帰ってこられるものと信じていた。 その時、氷河は、瞬を抱きしめられる幸福に酔い、目眩いすら覚えていたのである。 「――俺は、俺が瞬を忘れずにいることで、おまえらに迷惑をかけたことはないつもりだが」 瞬を失った時には、涙も出なかった。 泣きわめくことも、絶望に打ちひしがれることもできなかった――しなかった。 紫龍や一輝がどうだったのかは知らないが、少なくとも星矢が、彼の無口な仲間の恋に気付いたのは、瞬が死んでから半年以上が経ってからのことだったように思う。 「おせっかいも程々にしておけ。おまえだって、もういい歳なんだからな、星矢。俺を馬鹿だと思うなら、馬鹿にかかずらうのをやめるくらいの知恵を身につけた方がいい」 「馬鹿だから、放っておけないんだよ!」 恋のあるべき姿がひとつだけではないことも、幸福の形がひとつだけではないことも知らない子供のままの星矢に、氷河はひどく懐かしい気持ちになった。 十代の頃のきかん気な星矢が、突然目の前に現れたような気がして。 |