「あの……ここはどこですか?」
次に、その奇跡が氷河の許に訪れたのは、あの不思議な夜から数日が過ぎた、やはり星が降っているような夜の庭だった。

瞬は、つい数日前に会った時よりも、5、6歳、年を重ねていた。
そして、彼は、数日前に会ったばかりの氷河のことを、全く憶えていないようだった。

身に着けているものが、その年頃の“普通の”子供とは違う。
まるで装飾のない動きやすい服に編み上げのサンダル。
細くはあっても、緊張感を漂わせた四肢と姿勢は、親の庇護の下でのんびりと危機感のない日常を過ごしている子供には持ち得ないものだった。

「僕は、さっきまで、夜の浜で――」

だというのに、その瞳は、何かに迷い怯えているように頼りない。

(これは、瞬だ……!)

疑いようがなかった。
おそらくはアンドロメダ島にいた頃の、それは、まぎれもなく瞬だった。
自身の持つ力にいつも戸惑っているようだった瞬の面影が、既にその少年の中には宿っていた。

彼の肩に――それは氷河の胸より下にあった――恐る恐る手を伸ばす。
氷河は、彼の肩に触れることができた。
実体がある。
これは幻ではない。

もっとも彼は、恐ろしく素早い動作で、氷河が伸ばした手の先から、すぐに身を引いてしまったのだが。

「瞬……俺だ」

氷河の声が、彼の耳に届いたのかどうか――。
それこそ幻を見るような瞳で、視界に氷河を映していた少年の姿は、氷河が言葉を発したその数秒後には、数日前と同じように、星の空の下に溶けてしまっていた。






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