記者会見とやらは、いつもの通り、お決まりの質問の羅列ばかりで、退屈かつ無意味極まりないものだった。

『どうやってモデルになる決意をさせたのか』とか
(俺が頼んだわけじゃない)
『モデルとの間に、ロマンスは生まれなかったのか』とか
(俺には、俺の好みってものがあるんだ)
『描くにあたって、特に苦労した点は』とか――。
(こんなものを描く作業自体が苦労そのものだ!)

俺は、矢継ぎ早にあびせかけられるくだらない質問に、適当な答えを返す。
それを面白おかしく脚色するのはインタビュアーたちの仕事だ。

俺が、「ああ」だの「そうだな」だのとしか答えない分、俺の絵のモデルをしてくれたらしい女が、得意げに長広舌をふるってくれた。
「先生は、女の私が見てもうっとりするくらいお綺麗ですけど、ロマンスなんて、とてもそんな。モデルになる件は、私の所属事務所の方から特にお願いしたんですけど、快くお引き受けいただきました。モデルを務めさせていただいている間は、さすがにとても緊張しました。とても光栄でしたけど」
とか何とか。

俺に絵を描かせろと事務所の社長に噛みついて、大金を積んで、俺の貴重な時間を奪ったくせに、何が『緊張しました』だ。
演技するのが女優の仕事なのだとしても、毎度のことながら、こんな茶番に付き合うのには心底から白ける。

この絵とこの女がマスコミの話題になるのは間違いないだろう。
このモデルが女優として大成するかどうかはともかく、この絵は世間の注目を浴び、そして、俺の懐には金が入ってくる。

殴り書きのデッサンにすら数万、モデルによっては――絵の出来じゃなく――数十万の値がつく世の中が間違っている! ――とは、俺には言えないセリフだった。


俺には苦痛でしかない記者会見も、だが、そろそろ終わりに近付いていた。
いつも、締めくくりに発せられる質問がやっと出てきたことで、俺は苦行の終わりが近いことを知ることができた。
すなわち、
「次のモデルには誰を予定されているんですか」
――だ。

いつもなら、ここで、
『美しい女性がいたら、ぜひともご紹介願いたい』
とか何とか答えるところなんだが、今日の俺は違っていた。

俺はとにかく、この馬鹿げたやりとりを早く切り上げたかった。
あの子が――あの子が待ってるんだ。

「ああ、そうだな……」
上の空で、俺は呟いた。
「今度は、社会的には無名の人物でも――」

その時、俺の脳裏にあったのは、あの少年の姿だった。
最高のプロポーションと、吸いこまれそうな目をした、あの――。

「それは、先生がプロデュースして、新人タレントを売り出すということですか!」
いつもと違う俺の答えに、インタビュアーが食いついてくる。
俺は、自分が馬鹿なことを口走ってしまったことに、遅まきながら気付いた。
それにしても、この芸能リポーターは、俺を芸能プロダクションのスカウトか何かと勘違いしてるんじゃないのか !?

ムッとして、俺は大法螺を吹いてやった。
「いっそ、オーディションでも企画したいところだな」

途端に、記者連中が色めき立つ。
俺の大法螺は、おそらく大ニュースになるんだろう。
ワイドショーと二流週刊誌の。

俺にはどうでもいいことだった。






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