最初からわかってはいたのだが、やはりマスコミの力は偉大だった。
俺が瞬の大理石像をマスコミに公開してから、瞬がいぶり出されてくるまでに、さほどの時間はかからなかった。


「氷河……!」
収録を終えたテレビ局の前で車に乗り込もうとしていた俺の前に、乗車を遮るようにして飛び出してきた小さな影。

「瞬……!」
それが瞬のものだと気付いた時、俺は歓喜の叫びをあげそうになった。

「おい、あれ、もしかして」
周囲にいた局員や通りすがりのタレントたちが、瞬が何者なのかに目聡く気付く。
「こ……こっち来てっ!」
瞬は真っ赤になって、俺の手を掴んだ。

考えてみると、瞬と手を握り合うのはこれが初めてのことだと、馬鹿なことを考えながら、俺は瞬の手に引かれるまま、瞬が待たせておいたらしいタクシーに乗り込むことになった。
適当に走ってくれと事前に言ってあったらしく、俺たちが後部座席に収まると、タクシーはすぐに発車した。


「ど……どうして、あんなものを……!」
車が動き出すと、早速瞬が俺を問い詰めてくる。
怒っている顔も可愛い。
俺は、目論み通りに、自分の目的が達成されたことに目一杯浮かれていた。

「具象画だと一視点から見た面しか描けないからな。かといって、多視点の絵を描いて、おまえの肖像をピカソみたいな間の抜けた絵にするわけにもいかないし、おまえのすべてを写し取ろうと思ったら、やはり彫像だろう」
「そうじゃなくて、どうして僕の像を――」
「おまえに会いたかった。おまえに会いたかったんだ。いい手だったろう。実際、こうして会えた」
「…………」

手段は姑息だったかもしれないが、俺の目的は真摯で本気で真剣だ。
俺の語り口は、意識しなくても熱っぽいものになり、瞬は俺の訴えに気後れしたように、しばし非難の言葉を途切らせた。






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