「俺が王になれたのは、神に選ばれたからじゃない」 何でもいい。 シュンに、昨夜の自分を 「ラマッスの聖鳥――あれは、アッシリアの貴族の家では、よく飼い馴らされていた鳥で、クラリセージの匂いを異様に好むんだ。亡くなった祖父に聞いていた。だから、先の王が亡くなった日からずっと、俺は、以前コラズミアの隊商から手に入れていたクラリセージの匂い袋を身につけていた」 「じゃ……じゃあ、ヒョウガが王様になれたのは――」 「あそこまでうまくいくとは思ってはいなかったが、王に選ばれなかったら、他の手を使って国政に携わる場所に潜り込んでやろうとは思っていた」 ヒョウガが瑣末なことのようにしてのけた告白に、シュンは瞳を見開いた。 身体は、まだ、動かせない。 おそらくは、昨夜の狼藉の跡をシュンの目に触れさせまいとしたヒョウガの手で――シュンは上着だけは身にまとわされていた。 「か……神の配偶者選びの時は……」 「おまえのいる建物の周囲に大きな磁石を埋めておいた」 「磁石?」 「地中海の方で発見されたものだが、要するに鳥の感覚を狂わせる石だ。シェドウの聖鳥にされる鳥はもともとが渡り鳥で、磁気には敏感だったし」 「ヒョウガ……」 シュンには、ヒョウガの行為は、神を手玉にとっているものとしか思えなかった。 ヒョウガが神を信じないのも当然である。 彼は、そんなものの力を必要としない人間なのだ。 「俺は――」 シュンから、昨夜の乱暴を難詰する言葉が出てこないことに勇気づけられて、ヒョウガはシュンが身体を横たえている寝台の枕許に歩み寄った。 側近くで見るシュンの姿は、やはり羽を傷付けられた小鳥のように痛々しくて、ヒョウガの胸には再び悔悟の念が湧いてくることになったが。 「俺は、本当は――本当は、こんな国も、俺とおまえ以外の人間もどうだってよかったんだ。おまえさえいてくれれば、俺はそれで満足だった。だが、おまえを幸せにしてやろうと思ったら、この街と国を豊かにしてやらなけりゃならなくて、おまえの目を俺に向けようと思ったら、おまえの胸を痛めている裸足のガキ共を街から一掃してやらなけりゃならなくて、だから、俺は、そうできるだけの力が欲しかった」 シュンの眼差しが切なげな色を帯びる。 その変化の理由を解することができなくて、ヒョウガは少しく焦れた。 「その力を手に入れてからは、なるべく早くこの国を改革してやろうと気が急いた。だが、その目的を果たすまでの官吏や神官たちとの汚い権謀術数は、おまえに見せたくなかったし、だから、俺はおまえをなかなか俺の側に呼べなかった」 ヒョウガは、シュンのために必死だった。 だというのに――。 「なのに、おまえは、俺のそんな気も知らないで、神殿の神官になんか――」 よりにもよって、ヒョウガが潰そうとしている神殿の組織の中に、シュンは入ろうとしたのだ。 必ず迎えに行くと言ったのに、シュンはその時を信じて待っていてはくれなかった。 |