ヒョウガは、自分がシュンを責め始めていることに気付いていなかった。
信じていてほしかったのに、待っていてほしかったのにと、彼はそれだけを自分勝手に訴えていた――いつのまにか。

「でも、じゃあ、僕は」
だが、シュンにはシュンの心と望みがあったのである。

「僕はどうすればよかったの」
「シュン……?」

「じゃあ、僕はどうすればよかったのっ!」
滅多に人を責めることのないシュンに声を荒げられて――力無い声で責められて――ヒョウガは、自分がまた自分ひとりの理屈で走り出していたことに気付いた。
シュンは、瞳に涙をためていた。
シュンにそんな目をさせることは、ヒョウガの本意ではなかった。

「僕は、僕の欲しいものを、ヒョウガから貰うだけなの! 僕は非力だから何もしちゃいけないの!」
「シュン、俺はそんなつもりで……」
「僕は待ってることしかできないの。僕は……僕は、ヒョウガの側にいたかった! 僕は、僕の欲しいもののために、僕にできる限りのことをした! なのに……!」

大抵のことは我慢してきた。
耐えられることは耐え続けてきた。
生まれて初めて、与えられた環境の中から外に出ることを決意して、そして、シュンはその決意を行動に移したのだ。

「僕は、僕の夢をヒョウガに叶えてもらうの。ヒョウガが何かしてくれるのを待ってるだけなの。力のない者はそうするしかないの。僕は、ヒョウガが僕に『来い』って言ってくれたら、目の前にイディグナより広い大河があったって、きっと渡ってみせるのに、なのに、ヒョウガは――僕を側に呼んでくれなかった。僕が必死の思いでしたことを否定した。だから、僕は落胆して、消沈して、何もかもどうでもいいみたいな気持ちになって……」

だから、“神”にすがったのだ。
“神”は、シュンに優しかった。
シュンの側にいてくれて、シュンの話を聞いてくれた。
“神”は、シュンがそこに存在することを、無言で静かに受け入れてくれたのだ。
それは――ヒョウガの偽りの姿ではあったのだけれども。

「ヒョウガが戦に行ってる間、僕のところに来てくれてたのが誰だって、どうだっていい! 神様でも、ヒョウガの偽物でも、何だっていいのっ」

それが、大切な人を失いかけている不安に苛まれていたシュンにとって、どれほどの救いだったかを、ヒョウガはまるでわかっていない――わかっていなかった。

「彼がいてくれなかったら、僕はヒョウガが心配で、不安で、心細くて、きっと気が狂ってた! 僕には、ナブ神様が必要だった! だから、あれはきっと神様が――神様が弱い僕に同情して来てくれたんだ……!」

ヒョウガのように“強い”人間には、理解し難いことなのかもしれない。

だが、それは必要なものだったのだ。
心弱っていたシュンにはどうしても。






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