「俺は、おまえに辛い思いをさせたくなかった。嫌なものを見せたくなかったんだ……」

それは言い訳でしかない――ということが、今ではヒョウガにもわかっていた。
シュンの気持ちを慮らない独善は、シュンを傷付けるだけの行為だったのだと、今ならわかる。
シュンをこれほどに追い詰めるまで、それを理解し得ずにいた自分自身を、ヒョウガは悔やんでいた。

「だから、呼ばなかった。神官聖別の儀式に参列しているおまえを見て、おまえこそが俺を必要としていないんだと、俺を信じてくれていないんだと思った。俺がおまえを好きなようには、おまえは俺を好きでいてくれなくて、なのに今更そんなことを言ったら、ますますおまえに嫌われてしまうかもしれないと思った。俺は、それが恐かった」
だが、諦めてしまうことも、ヒョウガにはできなかったのだ。

「ヒョウガが……そんなこと恐がったりするの」
ヒョウガの告白を聞かされて、シュンが意外そうな顔をする。

実際、意外だったのだ。
シュンの知っているヒョウガは、敵を作ることも孤立することも恐れない、シュンから見れば剛胆この上ない人間だった。
シュンには、それが時に無鉄砲に見えて、はらはらすることも多かったのだが。

ヒョウガが、彼にしては気弱に見える形だけの笑みを作る。
「俺を刃の欠けないヒッタイトの武器だとでも思っているのか」
「だって、ヒョウガは、いつも自分のしてることに自信ありげで、人に嫌われることも恐がったりしなくて――」 
「おまえだけは、俺の味方でいてくれると信じていられたからじゃないか! おまえだけは、俺をわかってくれていると思っていたから、俺は――」
剛胆な振りも、気強い振りもしていられたのだ。

「誰に憎まれようと恨まれようと平気だ。だが、おまえに見放されるのだけは――恐い」
「ヒョウガ……」
「おまえがいらないなんてことはない。おまえが非力なはずがない。俺はおまえがいてくれないと、何もしないし、何もできない。俺には――」

シュンに“神”が必要だったように、ヒョウガにもまたシュンが必要だった――。
必要としていてくれたのだと、シュンはひどく幸せな気持ちで、その事実を噛みしめた。






【next】