それからまもなく、ヒョウガは、ナブ神殿の塔の部屋を破壊し、神の配偶者の制度を廃止した。 バビロンの住人たちを納得させるために、彼は、『夢の中で、ナブ神に、塔の破壊を命じられたから』という、嘘八百を平気で言ってのけた。 「シュン以外の配偶者を愛することはできそうにないから、あの塔はもはや無用だということらしい」 と、もっともらしく告げた王の言葉を、バビロンの街の住人たちは存外簡単に信じ込んだ。 現在の神の配偶者への神の執心の程は、バビロンの都中に艶笑話になるほど知れ渡っていたので、彼等はさもありなんとばかりに、ヒョウガの作り話に納得してしまったのだった。 神殿の塔を破壊してから、ヒョウガは捕えていた神官たちを解放し、彼等には、その捕縛の訳を、『神の命令を迅速に行なうためだった』と弁明した。 神への不敬を極めていた王にそう言われてしまった神殿の神官たちも、王の信仰心を祝福して引き下がるしかなかったのである(彼等の本心までは、ヒョウガは気にしなかった)。 シュンは王宮に入り、シュンらしい温和さで、神官たちを一人一人説得し、神殿に集まる富を貧しい人々に分け与える仕組みを作った。 ヒョウガのやり方とは異なる、急進的ではない変化を、彼等は概ね快く受け入れて、ヒョウガは意想外に素直な神殿側の出方に驚くことになった。 「僕は、ヒョウガみたいなやり方はできないけど……。小さくて、ゆっくりとしか変わらない力も、力だよ。何にもならないことはないって思いたい」 物柔らかにそう言って微笑むシュンは、おそらく果断に過ぎるヒョウガには最良の“配偶者”だったに違いない。 |