瞬はもちろん、氷河に約束したことを果たすために、彼にできることは全てした。
もっとも、この場合、瞬にできることは、ごく限られたことだけだったのだが。

「兄さんとか紫龍とか、それから一応星矢にも聞いてみたんだけど……」
「あいつらの言うことが参考になるのか」
「うん……やっぱり、人それぞれみたい……。『長く一緒にいれば以心伝心だ』なんて、当たり前のことみたいに言えるって、考えようによっては、恵まれた恋をしてる人ばっかりだね、僕たちの周り」

瞬は、自分の奔走の結果を氷河に報告しながら、小さく嘆息した。
アテナの聖闘士たちが恋愛関係で恵まれているという事実に、実は瞬はこれまでただの一度も考え及んだことがなかった。
が、それは、紛う方なき事実である。
好きな相手に振られて泣いている仲間の姿になど、実際瞬は、これまで一度もお目にかかったことがなかった。

「でも、だから、僕、僕なりに考えてみたんだけどね。大事なのはやっぱり誠意を示すことだと思うんだ」
「どうやってだ。誠意なんて、何かが起きた時じゃないと示せるものでもないと思うが。それこそ、身の上相談でも受けたなら、親身になって相談に乗ってやることもできるだろうが」

氷河の言い分はもっともである。
もっともだと思った瞬は、それ故に、彼の言葉をあっさりと聞き流した。
その言葉の裏に込められたものに気付きもせずに。
“誠意”イコール“恋”と解してもらえない、解することが許されないことも、世の中にはあるのではないかという、それは、皮肉を込めた氷河の提言だったのだけれども。

「うん。でも、相談されるのを待ってもいられないと思うから……。最初は、いつもその人のこと気にかけてるって伝えるところからでいいんじゃないかと思うんだ」
「寝ては夢、起きてはうつつ幻の、夜毎に募るこの思い──と、一発かますわけか?」
「氷河、ふざけてる?」

突然、稀代の色事師・業平のフレーズを持ち出されて、瞬が顔をしかめる。
だが、そんなものを持ち出した氷河本人には、自分の相談事に親身になって当たってくれている仲間を茶化すつもりは全くなかったのである。
「いや、事実そうなんだが」

「そ……そう、なの?」
氷河に、真顔でその“事実”を知らされた瞬は、ふいに胸を突かれるような思いを味わうことになった。
氷河が、それほどに彼の恋に捕らわれているということが、瞬にはなぜか、意想外のことだったのである。

「惚れたら、そんなもんだろう。事実そうでも、そのまま伝えるのはやっぱりまずいもんか?」
「じ……自分の言葉で伝えないと、ふざけてるって思う人もいるんじゃないかな」
「なるほどな」

「…………」
瞬は、そして、それきり黙り込むことになってしまったのである。
場を沈んだものにしてはいけないと思うほどに、瞬には、氷河のための言葉が思いつかなかった。






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