「考えていてもどうにもならないことを、こんなふうに思い悩んでいるのは俺らしくない。俺ははっきり告白することにした!」 瞬は、彼の部屋の窓際に寄せた肘掛け椅子に腰掛けて、深まる秋の庭をぼんやりと眺めていた。星矢たちとの決裂後、その足で瞬の部屋に赴いた氷河は、心ここにあらずといった 「え? あ……そ……そうだね、それがいいね。……多分」 氷河の勢いに 「ああ。こんなふうにうじうじしているのは、俺の性に合わん」 「ん……。きっとうまくいくよ。頑張って」 「…………」 無責任極まりない態度でいる星矢と紫龍への怒り、それよりも何よりも自分自身への憤り。 その二つに突き動かれるように瞬の許にやってきて、告白の決意を高らかに宣言してみせたまではよかった。 だが、勢いだけでそんなことをしてのけて、瞬に励ましの言葉を貰うに至り、氷河はひどく切ない気分になってしまったのである。 そして、彼は、今更ながらに不安になった。 瞬は本当にそれでいいと思っているのだろうか。 瞬に多少なりと好意を抱いてもらえていると思っていたのは、実は全くの勘違いだったのだろうか?――と。 当初の意気込みはどこへやら、氷河はふいに語調を落として、瞬に尋ねてみた。 「それで玉砕することになったら、おまえ、俺を慰めてくれるか」 「それはもちろん……。でも、今はそんなことは考えないでいた方がいいと思うけど」 「そうだな。じゃあ、頑張ってみる」 「うん。その人と仲良くなれるといいね。その時には、僕にも紹介してね」 瞬は――ついに告白の決意に至った仲間を力づけるため、にっこりと氷河に笑ってみせた。 瞬はそうしたつもりだった。 実際笑ったのである。 ただ、それと同時に涙がぽろぽろと零れてきただけで。 「──瞬」 「氷河を嫌う人なんてきっといないから……」 次々と瞬の瞳から零れ落ちる透き通った涙の粒は、本来なら、氷河を喜ばせるもののはずだった。 「しゅ……」 「あ……あれ……?」 だが、氷河にそれを喜べるはずがないではないか。 瞬が、目の前で、泣いているというのに。 「僕、変」 瞬は、自分の瞳から零れ落ちるものの意味がわかっていないらしく、必死に笑顔の形を維持しようとしながら、首をかしげている。 それ以上そんな瞬を見ていることができなくなって、氷河は、まるで叱りつけるように乱暴な口調で、ついに瞬に“告白”したのである。 「ばっ……ばかっ! 俺が惚れた相手なんて、そんなのおまえに決まってるじゃないかっ! 泣くなっ」 「え……?」 笑顔と涙の入り混じったややこしい表情をそのままに、瞬が、まるでキツネにつままれたような目をして、氷河の顔を見あげる。 「おまえだ、おまえ! この俺が、おまえ以外の誰に惚れるっていうんだ!」 氷河の告白と弁解を兼ねた説明は、しかし、かえって瞬を混乱させただけだった――らしい。 瞬にもたらされたその混乱は、幸い、彼の涙を止めることにだけは役立ったが。 |