「あの……でも、氷河には好きな人がいて――」
「だから、それがおまえなんだ」
「でも……だったら、どうして僕に相談なんて」
「それは――」

瞬の疑念はもっともである。
瞬の質問が至極当然すぎて、逆に氷河は瞬に即答できなかった。

「それは、つまり――」
直接の理由は、星矢たちにけしかけられたから――である。
しかし、その計画に乗ったのは氷河自身であり、瞬を泣かせたのも、他の誰かではない。

氷河は、瞬に軽蔑されるのを覚悟して、自分が口にしていいことだけを口にした。
「俺は、もしおまえも俺を好きでいてくれるなら、そういう相談を持ちかけられた時に、おまえがそれなりの反応を示してくれるだろうと期待したんだ」

「僕を試したの」
瞬が、実に端的な言葉を用いて、氷河に問い返してくる。
氷河には、弁明もできなかった。
「……そうだ」

「ひどい」
その一言を口にすると、瞬はそれきり黙り込んでしまった。
氷河は、そして、ずどーん★ と、地獄の底まで突き抜けるような勢いで落ち込む羽目になってしまったのである。

冷静になって考えてみれば、それは、瞬の言う通りに、とても『ひどい』、そして、卑劣極まりないやり方だった。
それはつまり、自分が『好きだ』と告白することを避け、瞬にそれを言わせようとした――ということなのだ。

「悪かった」
弁解も言い逃れもできない。
氷河には、瞬に謝ることしかできなかった。

「僕は、氷河がその人とうまくいくようにって、僕なりに一生懸命……」
「すまん」
「僕は、氷河がその人を……」
「悪かった!」

氷河は、瞬にできることは、結局、許すことだけなのだということを知っていた。
瞬が、最後には許してくれるだろうこともわかっていた。
だが、だからこそ氷河は、瞬に『許してくれ』とは言えなかったのである。






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