黄金聖闘士たちの中に、遠謀深慮の士は、実は一人もいない。
彼等は皆、無謀短慮の男たちである。
故に、彼等は、氷河の侮蔑の言葉に光速で反応した。

「キグナス、覚悟―っっ !!!!!!!!!!! 」× 11
11人の黄金聖闘士が、即座に臨戦態勢になり、そして、彼等はそれぞれの必殺技を氷河めがけて繰り出した。

「やめてくださいーっっ !! 」
11人の無謀短慮の男たちの光速拳が、どういう経緯を辿って霧散したのかは、この際問題ではない。
大事なのは、氷河に向けられた攻撃の全てが、彼の身にふりかかる前に粉砕されてしまったという結果だけである。

「なんだか表が騒がしいと思って来てみたら……」
黄金聖闘士たちが城戸邸の表玄関に、日光浴中のセイウチよろしくごろごろと転がっている様を眺めて、(自分がそうしたというのに)瞬は戸惑ったような顔をして呟いた。

「いったい何事ですか、黄金聖闘士がみんな揃って」
「やあ、アンドロメダ。相変わらず可愛いのに強いなー」
瞬の攻撃で――もとい、防御で――ズタボロになったミロが根性で立ちあがり、いざるようにして瞬の側に寄ってくる。

「どうして、みなさんが日本にいらしてるんですか」
「君がキグナスに殺されかけているから助けてやってくれと、星矢からご注進があったんですよ」

「僕が殺されかけ……え?」
ミロの次に態勢を整えたムウに状況説明を受けた瞬が、瞳を見開く。

「星矢……?」
瞬が視線を星矢の方に巡らすと、星矢は、その視線の先で、心もち顔を伏せ、口をとがらせた。
「だって、そうじゃん。こないだ雑魚共が攻めてきた時、瞬、泣いてたじゃないか」

「…………」
仮にもアテナに攻撃を仕掛けてくるほどの度胸を持った相手を、雑魚呼ばわりするのは失礼千万というものであるが、それはこの際、問題ではない。
「だいいち、氷河も瞬も男でさ、そーゆーのって自然なことじゃないんだしさ。瞬、ほんとはヤなんだろ? でも、自分では言えないから、仕方なく、氷河の言うこと聞いてるんだろ?」

そう言いながら星矢は、自分の口調が少々言い訳がましい響きを帯びていることに気付いていた。
そして、星矢は、瞬の意思を無視しているというのなら、それは自分も同じなのだということに、遅ればせながら思い至ったのである。
少なくとも星矢は、瞬の意向を確認して、こういう真似をしでかしたのではなかった。






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