星矢は、興味津々な目をして、続く言葉を待っている。

それ・・を言わずに済ませることはできそうにないと悟った瞬は、不承不承口を開いた。
「……僕、氷河の目を見ると、だいたいわかるから。さっきの氷河は、おとといの夜ほどには切羽詰ってなかった」
「わかるって何が」
「だから……そのナニっていうか、何を考えてるのか……っていうか、下心っていうか……その緊急度っていうか……」
「下心?」

瞬のしどろもどろな説明に焦れて、星矢が眉をしかめる。
星矢に比べればはるかに読解力に優れ察しのいい紫龍が、そんな星矢のために、瞬の言葉を実に簡潔に翻訳してみせた。

「星矢。瞬は、氷河の目を見ると、氷河の股間がわかると言っているんだ」
「へ?」

事件の解決を望んではいたが、星矢はそんな“犯人”を知りたくはなかった。
知ろうとした自分自身を、星矢は一瞬、海よりも深く後悔した。

「おい、瞬〜〜〜っっ !! 」
星矢の雄叫びは、むしろ泣き声に近い、実に情けない響きのものだった。
しかも、どう考えても、星矢は、そんなことがわかってしまう・・・・・・・瞬を責めている──。

「わかるんだから仕方ないでしょっ!」
が、この場合、たとえどんな非難を受けても、瞬としてはそう怒鳴り返すしかなかった。

「仕方ない……って、そりゃそーだけどさー……」
確かに、わかってしまう・・・・・・・のは、瞬のせいではない──かもしれない。
星矢は、脱力しきった顔で、溜め息をひとつ漏らした。

「氷河って、どっちかっていうと、普段はまるっきり無表情──というか、無愛想というか……」
「時々、恐ろしくわかりやすいが、奴は、基本的に表情を作るのが下手だな」
それでも『わかる』というのなら、それは恋という感情の為せる技なのかもしれない。

「“目は心の窓”ならぬ“目は股間の窓”かぁ……。だから、これのこと、“社会の窓”って言うのかな」
星矢がしみじみした様子で、自らの股間のジッパーを親指で指し示す。

「それは違う……というか、既に死語だろう、それは」
半世紀も前の流行語を持ち出してくる星矢に、紫龍は少々呆れた顔になった。



■ “死語”をご存じない方は、こちらの下。



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