──人は、戦い争い続ける生き物なのかもしれない。
無意味と知りつつ、無益と知りつつ、得られるものは虚無のみと知りつつ、それでも意地を張ったように人々が戦い続けるのは、人の持つ悲しいさが故なのかもしれない。
だが、人は、戦いにむことを知る生き物である。
戦い続けることに飽きる生き物でもあるのだ。


それが、長く続いた膠着状態のせいで氷河が疲れていたせいなのか、あるいは、欲求不満からくる注意力散漫の結果なのか、はたまた、マスク着用による視野狭窄のせいだったのかはわからない。
終戦のきっかけは、思わぬところに転がっていた。

氷河が瞬に夜の生活を拒否され始めて1週間後のある夜のことである。
城戸邸の階段を下りようとしていた氷河は、階下からクリーニング済みのシーツを十数枚両手に抱えて階段を上ってきた城戸邸のメイドさんにぶつかり、二人して階段を転げ落ちるという人身事故を起こしてしまったのである。

いくら欲求不満でボケていたとはいえ、仮にも聖闘士、氷河は咄嗟に彼女を庇い、幸い、メイドさんは腕にかすり傷を負っただけで済んだのだが、これで瞬の堪忍袋の緒が切れた。
へたをすれば、全く無関係な第三者に大怪我をさせていたかもしれないのである。
まかり間違えば、その命が失われていたかもしれないのだ。

それも、たかが・・・股間のことで、である。
もはや、氷河が降伏してくるのを待っている場合ではなかった。






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