ハートランドにて





『俺はおまえが好きだ』

たった一言、そう言えばいいだけなのである。
だが、その一言を言うために、人は苦悩し、その一言を言えないことに、人は傷付く。
実に意外なことではあったが、キグナス氷河もそういう人間の一人だった。

その一言を告げた時、瞬自身の答えはどうあれ、瞬が、決死の思いでその言葉を告げた男を笑い飛ばしたりしないだろうことはわかっていた。
自分に告白してきた男を死ぬほど嫌っていたとしても、瞬は、その事実を口にするようなことはすまい。

そして、告げられた好意が、瞬にとって受け入れ難いものだった時、瞬は、自分に好意を向けてくれている相手を傷付けないために悩むだろう。
へたをすると、そう言ってきた男を傷付けないために、瞬は、その男を受け入れることすらしかねない。

だから、氷河は悩んでいたのである。

『僕、氷河なんか嫌い』
──と、はっきり言ってくれる瞬ならば、氷河はこんなにも悩まなかった。
そして、瞬に対する自分の思いが、たとえ瞬に拒まれることになっても決して消えることのないものだとわかっているから、氷河には勇気が湧いてこなかった。

もっと気楽に楽しめる恋をすればよかったと思う。
振られても、潔く、そして、あっさりと諦めてしまえるような、そんな恋をすればよかった──と。

しかし、実際に、氷河にはそういう恋ができなかった。
だから、氷河は悩んでいたのである。






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