「でも……」
以前は、こうしているだけではなかった。
こうしているだけではなかったのだと、今の瞬は信じている。
そう信じていることが、瞬を寂しくさせている──のだ。

「……いいのか」
自分の掠れた声を聞いた時、氷河は、自分を卑怯で卑劣な男だと自覚していた。
だが、他にどうしようもなかった。
氷河は、それが欲しかったのだ。もう、ずっと以前から。

「今のおまえは、俺に、その……そういうことをされてもいいと思っているのか。以前がどうだったかじゃなくて、今のおまえは」
瞬の意思を尊重するようなその言葉は、事実は、卑怯この上ない言葉だった。
それは、自分の嘘を無効にするための、それでいて、更に嘘を重ねた言葉だった。

「…………」
氷河に問われた瞬が、ふいに唇を引き結ぶ。
氷河の嘘に真摯な答えを返すために、瞬は、の自分自身に、その問いを問いかけているようだった。

瞬の答えは、なかなか返ってこない。
瞬からの答えを待っている間ずっと、氷河は瞬に焦らされているような気分を味わっていた。
期待と、不安と、瞬が『いい』と答えたとして、そうしてしまっていいのかどうか──氷河もまた、自分自身に問いかけようとした──時。

「うん」
瞬が、の自分の答えを出す。
その片言の返事を聞き終わる前に、氷河は、瞬の身体を自分の下に引き込んで、その唇に唇を重ねていた。
今更、思考や理性や分別が何を言おうと、氷河の感情や感覚は、もはやそれらのものの支配下にはなかった。

氷河の唇が瞬の唇を離れ、瞬の肩口に移動する。
氷河の手が瞬の身に着けているものに掛かると、瞬はびくりと大きく全身を震わせた。
「……瞬?」
「は……初めてじゃないはずなのに、なんだか怖い……ね」

瞬の目許が、少し赤い。
それが、羞恥のせいなのか、未知の行為への怖れのためなのかは、瞬自身にもわかっていないのだろう。
いずれにしても、それは、氷河のおすを更にそそらせるだけのもので、氷河に冷静さを取り戻させる種類のものではなかった。

氷河が、瞬の服を引き剥ぐ。
そして、氷河は、初めてのことを初めてのことではないと必死に自分に言い聞かせているような瞬の肌に、食らいついていった。

瞬を抱き、愛撫し、刺し貫きながら、氷河は、それまでどうしても言えずにいたあの言葉を、瞬に繰り返し告げていた。

「おまえが好きだ、おまえが好きだ」
と、幾度も幾度も繰り返し。






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