「不安……だろうな。おまえは、自分自身のハートランドを失ったようなものだから」
嘘を嘘と告白する代わりに、氷河は、瞬を抱き寄せ、抱きしめた。

「ハートランド……? 心の──国?」
瞬が、“恋人”の体温に、少しく安らいだような目をして尋ねてくる。

氷河は、瞬に浅く頷いた。
「日本では、『心のふるさと』とでも訳すのかな。どこに行っても、どんなことになっても、決して忘れることのないものや人の住んでいる国、だ。おまえはそれを失ってしまったんだから──だが、きっといつか取り戻せるさ」

瞬が失ってしまったハートランドには、氷河は存在していなかった。
存在していたとしても、恋人としてではなかったろう。
その事実が、氷河には、苦く感じられて仕方がなかった。

瞬が瞬のハートランドを取り戻した時、瞬の恋人としての自分はどうなるのだろう。
そして、もし、瞬が永遠に瞬自身のハートランドを取り戻せなかったとしたら──?

瞬のために、どちらを望めばいいのかが、氷河にはわからなかった。






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