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紫龍が取り戻してきてくれたものの姿を認めた瞬は、右脚の深手を押して立ち上がった。
瞬の脚の傷の具合いを見ていた氷河が、それを止めなかったのは、瞬は紫龍の取り戻してきたものの安否を案じて無理に立ち上がったのだろうと思ったからだった。

周囲は瓦礫の山。
聖域から少し離れた人気のない場所。

聖域を襲撃してきた男たちは、瞬にとっては、赤子同然の微力な敵だった。
瞬がその敵たちに思いがけず苦戦を強いられたのは、彼等が人質を取るという、実に卑怯な真似をしてくれたからだった。
瞬は、彼等に、たまたま聖域近くに迷い込んできていたらしいギリシャ人の5、6歳の男の子を盾にされてしまったのである。

走ることができないほどの怪我を負わされた瞬は、それでも人質を取った敵を──というより、盾にされた子供を──追おうとした。
幸い、そこに、他の敵を倒した氷河と紫龍が駆けつけてきて──二人の仲間の姿に気付いた瞬は叫んだ。
「紫龍! あの子を助けて……!」

紫龍は、そうして、その数分後には、無事に瞬の望んだものを取り返して、氷河と瞬の待つ場所に戻ってきたのである。

瞬は、自分の脇にいた氷河の腕の力を借りて、立ち上がった。
そして、氷河の推察に反して、人質にされていた少年ではなく、その少年の横に立っていた仲間に歩み寄り、
「ありがとう」
そう言って、紫龍を抱きしめたのである。

氷河は仰天した。






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