ギリシャの早春を満喫するはだった青銅聖闘士たちの休暇は、阿呆な敵の出現で散々の首尾に終わった。

それはともかく、翌日彼等が帰国のために乗り込んだ飛行機の中で、氷河はずっと考えていたのである。
今日の日まで考えもしなかったこと、疑いもしなかったこと──すなわち、自分は瞬に信用されていないのではないかということ──を。

これまで瞬と過ごした日々を思い返してみれば、その中に、氷河は、瞬に何事かを頼まれた記憶というものがまるでなかった。
もともと瞬は、人に頼み事をすること自体が少なかったが、毎日を同じ家の中で過ごしていたら、日常の中での些細な頼み事・頼まれ事というものは頻繁に生じて然るべきものである。
だというのに、ただの一度も、ただのひとつも、氷河にはその記憶がない。

氷河は、自分が瞬に信頼されていないような気がしてならなかった。
瞬は、氷河の我儘は大抵聞いてくれるが、瞬自身は氷河に頼るということをしない。
何か頼みごとができると、それは紫龍に頼む。
正確を期すもの、確実性を求めるものは、特にそうだった。
そして、本来の年齢にふさわしく他愛のないことは、同い年という気安さもあるのか、星矢に頼んでしまうのだ。

瞬は、氷河を甘やかし、いつも彼の側にいてはくれたが、氷河の中には、瞬に頼られた記憶というものがまるでなかった。
闘いの場ではもちろん、それよりもっと日常的で些細な──たとえば、何かのついでの買い物のようなことですら──瞬は決して氷河に頼むことをしなかった。






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