II 






瞬は、氷河の痛いほどの覇気や攻撃性が怖かった。
が、自分から請うた滞在となれば、彼と言葉を交わさずに放っておくことはできなかったし、彼には見慣れない生活用品や施設の使い方を説明する必要もでてくる。
人間界では、なにしろ、照明器具さえ、未だに蝋燭や動物の脂を使った手燭のようなものを使っているのだ。

必要に迫られて彼と話をしているうちに、瞬は、自分が彼を──ひいては人間全般を──実際以上に残酷で好戦的なものだと思い込んでいた事実に気付くことになった。

氷河は、決して、闘いを好む人間というわけではなかった。
非常に頭も良く、理解力、洞察力、応用力、判断力に優れていた。
その上、行動力と決断力が瞬以上なのは、彼がこのエリシオンに怖れもなくやってきたことからして明らかである。
彼が“神”に劣るのは、『神の知識がない』という、その一点に尽きていた。


彼は確かに好戦的ではなかった。
彼は、ただ、強いだけなのだ。
欲しいものを手に入れるためには、その力を駆使するし、攻撃されたら反撃する。
理不尽には怒り、道を正そうとする。──力で。
それは、力を持っている者には当然のことなのかもしれなかった。

だが、瞬は、その力──氷河の持っている種類の力──を持たない。
弱者である瞬は、だから、彼を怖ろしいものと感じる。
それだけのことなのかもしれなかった。

この山の塔にひときりで暮らしている瞬に、彼は時折、その事実を気遣う優しささえ示してくれた。






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