飛び立ったジェットヘリのモニターには、崩壊に向かうオリンポスの全容が映し出されていた。
広大な神の庭のあちこちから、黒い煙が立ちのぼっている。

目的地をエリシオンにセットし、自動操縦に切り替えてからもしばらく、モニターがオリンポスの姿を映さなくなってからもずっと、瞬はモニターの上に視線を据えたままでいた。
地上から消え去ろうとしている神の庭を惜しむ気持ちとは別に、今の瞬の胸中には、強い力をたたえた氷河の瞳を見ることを辛いと感じる思いが存在していた。

だが、氷河は、瞬のそんな感傷や怖れに頓着するような男ではなかった。
「瞬、これは、どこにでも飛んで行けるものなのか」
初めて乗った得体の知れない金属の塊りに物怖じした様子もなく、彼は瞬に尋ねてきた。

瞬が氷河の顔を見ずに頷くと、氷河は、それが当然というような口調で、瞬に目的地の変更を命じた。
「俺の国へ」
「でも……」
「俺の国へ行く」

「…………」
瞬は氷河に逆らえなかった。
ここでは、ヘリの操縦法を知らない氷河より、自分の方が有利だということはわかっているのに、それでも。

オリンポスの神をも滅ぼしてしまった人間に抗する力が自分にあるとは、瞬には到底思えなかった。






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