雪と氷の聖闘士が、油まみれになった全身に点火をしようとした、まさにその瞬間。
某お姫様星座の聖闘士が、発火炎上寸前の氷河の前に姿を現した。

そして、のどかな春の風景そのものの風情をした瞬の姿を見た途端に、氷河は自分の周囲の空気を、真冬のそれに逆戻りさせたのである。

「ただいま、氷河」

強張っていることさえ感じさせない無表情で、氷河は、帰宅の報告をする瞬に軽く頷いてみせた。
「遅かったな」
「そう?」
「どこかで道草を食っていたのか」
「ううん」
「駅前に新しいカフェができたと、星矢が言っていたが」
「そうみたい」
「行かないか」
「今から?」
「嫌か」
「今から出たら、帰ってくる頃がちょうど夕食の時刻でしょ」
「甘いものと飯は別腹と言っていたじゃないか」
「それは、ご飯を先に食べた時の話」
「なら、飯を食った後に」
「…………」

抑揚のない氷河の声に、瞬が僅かに首をかしげる。
氷河は変わらず、無表情を保ち続けていた。

もしかしたら、この場で最も緊張していたのは、このやりとりの全くの部外者である星矢と紫龍だったかもしれない。
彼等は、氷河と瞬によって一見和やかに交わされている会話を、異様に緊張して聞いていた。

「氷河、ケーキが食べたいの?」
「まさか」

「…………」
氷河の、ある意味至極当然な答えに、瞬がきょとんとする。

それから瞬は、取ってつけたような笑みを作ると、
「無理しないでいいのに」
とだけ言い、そのままラウンジを出ていった。






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