「ふへぇ〜。一触即発、危機一髪〜!」
極度の緊張感から解放された星矢が、大きな溜め息と共に言葉を吐き出す。

「意外と瞬もしぶといな」
紫龍は紫龍で、瞬とどこぞの少女との会合を、完全に“浮気”と決めつけている口振りだった。
実際、そうとでも考えなければ、瞬がその事実を氷河に告げないことの理由が思いつかない状況ではあったのだ。

「やっぱり、カメラつきケータイは必要だな〜。動かぬ証拠を押さえとけばよかった」
「で、慰謝料でも取るのか? 瞬に支払い能力があるとは思えないが」
「沙織さんが出してくれるんじゃねーの? 俺たちのバトルって、1ステージ、幾らくらいなんだ?」
「しかし、氷河は瞬と別れたいわけではないだろうし」
「でも、覆水盆に返らずってコトワザもあるぜ」
「氷河なら、こぼれた水を凍らせて盆に戻すくらいのことはしそうだが」
「そーいや、氷河は、そういう器用な芸当ができるんだったな」

部外者というものは、いついかなる場合にでも、気楽に、言いたいことを言うものである。
勝手なことを言ってくれる仲間たちに腹を立てたのか、あるいは聞くに耐えなかったのか、氷河は、一瞬だけ彼等を睥睨すると、これまた瞬の後を追うようにラウンジを出ていった。


氷河の退場で、今度こそ完全に緊張感から解放された星矢が、げらげらと遠慮のない笑い声をあげる。
「氷河の奴、おっかしー! おもしれ〜!」

「しかし、からかうのはほどほどにしておいた方がいい」
分別顔で星矢をたしなめる紫龍も、だが、口許が笑いの形に引きつっている。

そして、氷河と瞬の間に思いきり大きな波風を立ててみせた星矢は、自分の言動に全く罪悪感を感じていないようだった。
「別にいいじゃん。どうせ、あのふたり、離れられないんだから」

「それはそうだろうが……いや、それもそうだな」
星矢の判断の的確さを認めた紫龍は、結局、そこで、星矢をたしなめるという愚行を中断した。

部外者というものは、確かに、いついかなる場合にも気楽である。
そして、部外者というものは、いついかなる場合にも、当事者よりはるかに冷静かつ客観的な判断力を有しているのだった。






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