氷河がそんな夜を繰り返していた矢先だった。
城戸沙織が、彼女の聖闘士たちを従えてギリシャに向かうことを決意したのは。

新しい闘いが始まると知った時、氷河はその事実を喜んだのである。
強大な敵が、激しい闘いが、自分から悪い夢を忘れさせてくれるだろうことを期待して。
氷河は、半ば浮かれるような足取りで、城戸沙織が用意したジェットヘリに乗り込んだのだった。


「だからさ〜。氷河、おまえ、瞬が嫌いなんだろ? なのに、なんで、それが当たり前のことみたいに、瞬の隣りに座るんだよ!」

言われて初めて気付く。
氷河は確かに、乗り込んだジェットヘリで、瞬の隣りの座席に座っていた。
しかし、氷河は、隣りの席に瞬がいることに、星矢の指摘を受けるまで気付いてもいなかった。

「貴様の隣りにいるより、静かな分、ましだからだ」
無理に並んで座らなくても座席は他にいくらでも空いているという事実を無視して、氷河は星矢に言い放った。

氷河は嘘を言ったつもりはなかったし、言い訳を口にしたつもりもなかった。
氷河は、事実、瞬が嫌いだったし、瞬が側にいると苛立つことに変わりはなかったのだ。

「おまえなぁ……」
さすがの星矢も、続く言葉が出てこない。
星矢の盛大な溜め息と共に、アテナの聖闘士たちは、一路ギリシャ聖域に向かうことになった。

そして、その聖域で、氷河は瞬に命を救われ、カスタネダの詩の後半を教えてくれなかった彼の師を倒すことになってしまったのである。






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