その後、氷河がとった行動が、冷静な判断力を見失ったゆえのものだったのか、あるいは、これ以上なく熟考した上での冷静な判断だったのかは、氷河しか知らない。 氷河は、自分と瞬に関するありとあらゆることを公にしてしまったのである。 自分が本当はヒトだったことも、自分がかつて受けた適性検査の各分野で、ヒトである自分の能力値がDBの受験生たちのそれをはるかに凌駕していたことも、DBの同性の恋人ができたことも。 一定以上の地位に就いているDBが、他人と同居するには、公人人権諮問委員会の承認が必要だったので、瞬との関係を他に認めさせようとしたら、それは避けて通ることのできない道ではあった。 しかし、氷河はそれを隠し通すこともできた。 その方が利口なやり方だったかもしれない。 実際、前代未聞のカミングアウトのせいで、氷河は、従来の仕事をこなしつつ、各種公聴会に引っ張り出され、あるいは自分から赴き、自身の恋を社会に認めさせるために東奔西走の苦労をすることになったのである。 氷河が自分の恋と出生を公にする道を選んだのは、自分の存在なしに、この世界が効率的にまわっていくはずがないという自信があったからだったかもしれない。 立法行政府のトップが、この世界を構成する根幹の法律を犯していたという事実は、実際、社会に大きな波紋を呼んだ。 氷河の恋人としての公式な承認など欲していなかった瞬は、世論の動向にはらはらし続け、期待通りの娯楽を手に入れた紫龍は、彼自身が犯罪加担者として逮捕される可能性を無視して、毎日楽しそうだった。 |