苦しいほどに甘く、息をするのも忘れるほどに濃密なケーキ。
そんなケーキを作ることのできるパティシエからは、一生離れられない──。

瞬が、どこまで本気でそんなことを言ったのか、氷河には、今ひとつ把握しきれていなかった。
しかし、美味なケーキに夢見心地にされ、本当に寝入ってしまっている瞬を目の当たりにした氷河は思ったのである。

瞬の理性がどう思惟しているのかはともかくも、瞬の感覚が、甘くて濃厚なケーキに弱いのは厳然たる事実である。
瞬をうっとりさせることができるほどのケーキを作れる男が瞬の身近にいたとしたら、瞬は本当にその男から一生離れられなくなってくれるかもしれない。
そして、その男が白鳥座の聖闘士だったとして、何の不都合があるだろう──と。

かくして、氷河は唐突に、瞬専用の凄腕パティシエになる決意をしたのである。

無論、決意するのは、氷河の勝手である。
彼の決意を妨げる権利を有する者は、この世に存在しない。
しかし、彼がその決意を現実のものとするには、大きな問題が一つあった。

氷河は、カスタードクリームとあんこの区別もつかないほど、甘みというものに関して絶対的な味音痴だったのである。






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