「氷河、今日は一日、どこに行ってたの? ううん、昨日も一昨日も、だけど」 「ん? ああ」 氷河は、当然のことながら、自分がケーキ屋で修行を始めたことを、瞬には秘密にしていた。 汗と涙にまみれた苦労の様は見せず、ある日颯爽と、美味で見た目も美しいケーキを瞬の前に差し出してみせることこそがダンディズムというものだと、氷河は固く信じていたのである。 しかし、事情を知らされていない瞬は、朝も早よから行き先も告げずに姿をくらまし、夜遅くに帰宅してはベッドに倒れ込む氷河を心配しないわけにはいかなかった。 「ああ、悪い。今夜はパス。気分が悪くて吐きそうだ」 「氷河、具合いが悪いの?」 ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ氷河は、瞬の胸の上に載せた腕をどかすこともせずに即行で寝入ってしまう。 瞬に、そんな様子の氷河を心配するなと言う方が、そもそも無理な話なのだ。 「うー……。気持ち悪い……」 「氷河、大丈夫?」 「どんなに気持ち悪くても、愛してるからな、瞬〜……」 寝言──にしても、意味不明である。 「気持ち悪いって、僕のこと?」 瞬が頬を蒼白にして尋ねた時には、氷河は既に、夢を見ることも不可能なほどに深い眠りの中に沈み込んでいた。 そんな昼と夜とが、それぞれ15回。 当然のことながら、瞬の“心配”は、“不安”へと変容していった。 |