とにかく、誤解は──瞬の誤解も氷河の誤解も──めでたく解けた。
半月もの間、擦れ違いの夜を過ごしていたにも関わらず、ふたりの間に亀裂が入らなかったのは、やはり“それ”が恋愛のメインディッシュではなかったからなのだろう。

「にしても……。どうして、おまえは、この俺に(1)だの(2)だのの可能性があるなんて馬鹿げたことを考えられたんだ」
瞬を大事と思う心に変わりはない。
しかし、氷河が、瞬に疑いをかけられたことにショックを受けたのもまた、まごうかたなき事実だった。

が、瞬には瞬の言い分があったのである。
「あれは……デザートだよ。ただの。氷河が、僕に半月デザート食べさせてくれなくたって、一年デザート食べさせてくれなくたって、その理由を秘密にしないでさえいてくれたら、僕は平気なんだから。我慢できるんだから。なのに、氷河が何も言ってくれないから、僕、不安になって、(1)だの(2)だのって、疑っちゃったんじゃない……!」

切なげな目をした瞬にそう言われてしまっては、氷河としてもそれ以上瞬を責めるわけにはいかない。
「悪かった」
氷河は素直に瞬に頭を下げた。
デザートにばかり気を取られ、メインディッシュをなおざりにしていたのは、確かに氷河の罪だった。

瞬が、すぐに首を横に振る。
秘密が秘密でなくなった時、その秘密は──氷河にとってはまさに地獄としか言いようのない場所で、半月もの間 苦行に耐えてくれた氷河の気持ちは──瞬にとっては、とても嬉しいメインディッシュだったのである。

「氷河、パンケーキくらいは焼けるようになったの? 砂糖と蜂蜜の甘さの違いもわからない甘味音痴のくせに パティシエになろうだなんて、ほんと無謀なこと考えるんだから……」
嬉しそうに尋ねてくる瞬に、氷河は自信満々で頷いた。

「そりゃあ、おまえのために必死に頑張ったんだから……。カスタードクリームくらいは作れるようになったし、クレープくらいは焼けるようになったぞ」
「ほ……ほんとに?」
「ああ。愛は不可能を可能にするというのは、本当だな」
「わぁ……! ね、僕、氷河の作ったデザート食べてみたい!」

秘密でなくなったメインディッシュは美味だった。
おそらく今夜から、夜のデザートも復活するだろう。
幸せ気分と幸せの予感に浮かれて自分が口にしたその一言を、それから1時間後、瞬は心から後悔することになった。






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