瞬の部屋は病室仕様になっていた。
と言っても、週に何度か往診に来る医者のための椅子がベッドの傍らに用意されてるだけだったけど。

ベッドに上体を起こしてる瞬を見詰めたまま、無言で数分。
早く何か言えばいいのにと、俺はやきもきしながら、氷河の作る沈黙を耐えた。

氷河が悩んでたのは、時間はいくらでもあると思って、これまで告げずにいた言葉を伝えるべきか否か──ってことだったろうと思う。
氷河も瞬も、お互いがお互いに特別だってことは感じてたみたいだったけど、もしかしたらそれは、今更改めて言うほどのものじゃなかったのかもしれない。
言わずにいた方が、互いの傷を深くせずに済むのかもしれないと、それは俺だって思わないでもなかった。

けど、でも、とにかく、氷河がその意を決したら、俺はすぐに席を外すつもりだった。
それまでは、氷河が取り乱して馬鹿なことを言ったりしたりしないように見張るつもりで、俺は瞬の部屋の隅に立っていた。
だけど、氷河はいつまで経っても口を開かなかった。
ただ黙って瞬を見詰め続けていた。

「氷河は……自分で起きれるようにならないといけないよね。朝には敵の襲撃が絶対ないなんて誰にも言えないんだから。低血圧にはね、チェダーチーズがいいんだよ。チーズは嫌いだなんて、子供みたいなこと言ってないで、観念して食べれるようになったら」

重い沈黙に耐えかねて、先に口を開いたのは瞬の方だった。
「だいたい氷河は、子供の頃から気分屋だったし、もう少し、人とのコミュニケーションに気を配った方が絶対いいんだ。主語や目的語を省いた不親切な日本語は、誤解されやすいんだから」

瞬は、ひたすら無言でいる氷河に、そんな話を始めた。
瞬が氷河に告げる全ての言葉の前に、『僕がいなくなったら』が省かれている。
瞬が氷河に語るのは、自分の死を前提にした話ばかり。
でなきゃ、ガキの頃の思い出話ばかりだった。

そして、氷河はと言えば、クライアントの話を聞いてる心理カウンセラーみたいに、瞬の語るに任せ、奴自身は一言も口をきかない。

──そんな日が数日続いた。






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