俺は最初、それを、氷河の身勝手な我儘だと思った。
瞬の声や瞬の姿に接する時間をなるべく少なくして、瞬との新しい思い出を作る機会を減らして、瞬がいなくなった後で、そんなものに苦しめられないようにしようっていう、自己防衛なんじゃないだろうかと。

だが、一時は、瞬も氷河と似たようなことを考えたらしい。
「喧嘩したままで死んでしまえば、氷河も嫌いな相手がいなくなってせいせいしたって気分になれて、それがいちばん氷河への負担が少ない別れ方かもしれないね……」
瞬は、そんなことを俺に言ったりした。

でも、それはない。
そんなことはありえない。
そんな別れを甘受できるほど、アテナの聖闘士たちの絆は薄っぺらいもんじゃないだろ。
まして、氷河と瞬は。

「それはねーだろ。そんなことになったら、氷河はむしろ死ぬまで後悔することになる」
「うん……」
瞬も、そんな考え方は間違ってるって、ちゃんとわかってるみたいだった。
寂しそうに、瞬は俺に頷いた。
俺は少しだけほっとした。


それにしても、だ。
なんで俺が、瞬とこんな話をしなきゃならないんだ?
なんで俺が、こんな悲しそうな目をした瞬の相手をしてなきゃならないんだ!
俺は、氷河を殴り倒してやりたい衝動にかられた。
でも、そうすることはできなかった。
俺には、氷河の気持ちも、何となくわかったから。

瞬が語るのは、残される者たちへの思いやりだ。
自分がいなくなっても、仲間たちが強く生きていけるように、傷付くことがないように──って、そんなことばかり。

だけど、俺たちが聞きたいのは、瞬と話したいのは、そんなことじゃなかった。
俺はむしろ、『死にたくない、生きていたい』と瞬に泣き叫んでほしかったんだ。






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