どこぞのじいさんの話を思い出した俺は、その足で瞬の部屋に向かった。
あの話を、今度は俺が瞬に話してやるために。思い出させるために。

そしたら、瞬が部屋のドアのすぐ側に倒れてて──俺は慌てて、瞬の側に駆け寄った。
瞬は、どうやら、誰の手も借りずに自分の部屋を出ようとしたらしい。
なのに、そんなことも叶わないほどに、瞬は弱ってしまっていた──。

そして、そんな瞬が俺に言うんだ。
「僕は氷河に嫌われたまま死にたくない。嫌われたのなら、もう一度、好きになってもらいたい。そのためになら、僕は何でもする」
──ってさ。

抱き起こした瞬の身体は──その言葉の必死さに反比例して頼りなかった。
もともと瞬は細かった。
外見も、筋肉がなくなっただけで醜くはなってないんだけど、でもとにかく、今の瞬からは力らしい力が感じられない。
ベッドに戻すために瞬を抱き上げた俺は、そのあまりの軽さに泣きたくなった。

「氷河は俺が連れてくる! おまえは無理すんな!」
俺は瞬の身体をベッドに置くと、それだけ言って、すぐに氷河の部屋に駆け込んだ。
そして、おまえのために無理をして瞬が倒れたと、氷河に大袈裟に言ってやった。

氷河は──こいつは、いったい何を考えていたんだろう。
氷河は、俺の言葉に慌てたり取り乱したりはしないで、むしろ、ほっとしたような顔になった。






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