「俺に、もう一度おまえを好きになってもらいたいそうだな」
「うん」
「どうして」
「僕が氷河を好きだから」

「いい答えだ。自分の都合か」
本当に──病床にいる病人相手に、氷河は何を考えていやがるんだろう。
氷河や俺に心配をさせないために、無理に上体を起こしている瞬に、氷河はそんな言葉を投げつけた。
言われた瞬が唇を噛む。

俺はといえば、とにかく氷河の物言いに腹が立って仕方がなかった。
そんな言い方はないだろ。
もしかしたら、それは、瞬の最期の望みなのかもしれないのに……!

「おまえは──」
そんな俺の憤りなんかにはお構いなしで、氷河が淡々と自分の言葉を続ける。
「おまえは、この秋には死ぬそうだな」
「……うん」
「死ぬなら、どうだっていいだろう。おまえの気持ちも俺の気持ちも。あと2、3ヶ月もすれば、おまえはこの場所から消えて、そして、すべては無になるんだ」

「おい、氷河、そんな言い方は……!」
氷河への怒りと瞬への同情心が臨界点を越えかけた俺が、氷河を殴らずに済んだのは、瞬のおかげだった。

瞬が思いがけない力強さで、
「2、3ヶ月後の話じゃない! 僕が氷河と仲違なかたがいしてるのが苦しいのは、今だ! 今の僕だよ!」
そう叫んだせいだった。

「やっぱり、自分の都合じゃないか」
氷河の答えはにべもない。

でも──でも、何でだろう。
氷河の声音はいやに冷たくて、まるで瞬を責めてるみたいなのに、氷河はなんだか、自分の都合で我儘になった瞬を喜んでるみたいだった。
氷河の青い目が、輝いてる。

瞬も、氷河の目の中に浮かんでいる明るい輝きに気付いて、戸惑っているみたいだった。






【next】