瞬のベッドの脇に立っていた氷河が、その枕元にあった付添人用の椅子に腰をおろして、瞬と向かい合う。 そうしてから、氷河は瞬に尋ねた。 「おまえは俺を好きか」 ──と。 瞬が頷くのを確かめて、更に言葉を継ぐ。 「なら、俺を信じられるか」 瞬はそれにも頷いて、頷いた瞬に、氷河は初めて笑顔──のようなものを作ってみせた。 そして、とんでもないことを言った。 「──おまえは死なない。世界中の医者が何と言おうと、検査用の機具がどんな結果を弾き出そうと、おまえは死なない」 「氷河……」 「おまえが死ぬのは、今から百年が過ぎてからだ。それまでは絶対に死なない。俺がそう言うんだ。信じろ。これから百年間、俺たちは一緒にいる」 「…………」 瞬は──もうその身体の中で力を持っているのは、唯一その瞳だけなんじゃないかと思えるほど弱っている瞬は──その二つの目を大きく見開いて、氷河を見詰めていた。 「おまえが俺の言葉を本当に信じてくれたら、俺はもう一度、おまえを好きになるだろう」 そう言って、氷河が瞬を抱きしめる。 「……僕は死なない。これから百年間、僕は氷河と一緒にいる──僕は死なない……」 氷河の腕の中で、瞬は、呟くように、自身に言い聞かせるように、何度もその言葉を繰り返した。 瞬が本当にそう思い込んだのか、信じてないのに信じた振りをしたのか、それは俺にはわからない。 でも、瞬はその日から変わった。 いや、瞬は、氷河が好きだった瞬に──元の瞬に戻ったんだ。 |