この 思いがけない贈り物に驚いたのは北の国の王様です。
自分と同じような不幸な父親を見るに忍びないという気持ちから出た親切の代償に、その王子様を贈られるなんて。

もちろん、北の国の王様はお金持ちでしたから、養育費に困るようなことはありませんが、これではまるで人質をとってしまったようなもの。
両国の間に密約でも結ばれたのでは? と、他国の人間に勘繰られてしまうかもしれません。
南の国の国民や北の国の国民だって、不安を覚えることになるかもしれないではありませんか。

北の国の王様の不安と懸念をよそに、北の国のお后様は、愛らしい赤ちゃんをうっとりと眺めて、
「まあ、可愛らしいこと。これが、王子でなく王女だったら、ウチの氷河のお嫁さんにするところなのに」
なんてノンキなことを言っています。

お后様のノンキなその一言が、北の国の王様に一つの名案を思いつかせました。
「それだ! 瞬王子を氷河の婚約者だということにしてしまおう!」
「何を言い出したんです。どんなに可愛くても、この子は男の子ですよ。氷河のお嫁さんにはなれませんわ」
「だからいいのだ!」
驚くお后様に、北の国の王様は、得々と自分の考えた名案を披露しました。

北の国の王様の考えは、こうでした。
瞬王子を氷河王子の婚約者にしてしまう。
そうなれば当然、瞬王子との婚約を破棄をしない限り、氷河王子は、他の少女と結婚できないことになります。
自国の者ならともかく、他国の王子が相手ともなれば、婚約破棄は外交問題、容易にできることではありません。
結婚できないのに、他の女の子に粉をかけるのは不誠実というもの。
女の子の方だって、婚約者(しかも男の)がいるとなれば、氷河王子に距離を置くようになるに違いない──。

「どうだ。名案だろう?」
北の国の王様は、得意げにお后様に同意を求め、
「え? ええ……」
同意を求められたお后様は、目をぱちくり。

北の国のお后様は、王様の“名案”には大きな穴があるような気がしてなりませんでした。
けれど、ともかく、それは、氷河王子が本気の恋をする機会を減らすのには有効ではありそうです。
お后様は、そうして結局、王様の“名案”に賛同しました。

氷河王子2歳、瞬王子0歳。
かくして、二人の婚約は相整ったのでした。






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