「瞬」
「氷河……」
愛する人の名を呼び、キスをして、互いを互いの胸に抱きしめて──けれど、それ以上のことは決してできない。
それが、氷河王子と瞬王子の恋でした。

もしかしたら、カニ好きの妖精の呪いは男同士の場合には無効なのかもしれない──と思わないでもなかったのですが、こればかりは試してみるわけにはいきません。
氷河王子の胸には、瞬王子への思いは真実の恋だという確信がありましたから、なおさらです。

切ない溜め息を洩らしながら、キスをして、指を絡ませ、頬を寄せ合い、強く互いを抱きしめて、そして、そこまで。
それが、二人の恋だったのです。


氷河王子は17歳になっていました。
植物で言うなら木の芽時、動物でいうなら発情期。
やりたい盛りに、これはもはや拷問です。
しかも、互いに愛し合っていることを知っているのに、いつもいつも、いいところで、『はい、そこまで』の声がかかるのです。
こんな辛いことがあるでしょうか。

その上です。
氷河王子は真実の恋の相手と××すると死んでしまうのですが、瞬王子はそうではありません。
瞬王子を自分の呪いに付き合わせているようで、氷河王子は、それが何より苦しかったのです。

キスをして、抱きしめ合ったそのあとに、互いの燃える思いを知りながら、二人は、愛しい人を抱きしめている腕をほどかなければなりません。
その時に瞬王子の瞳に宿る寂しげな色。
その切ない瞳の色に出合うたび、氷河王子の胸は、そのまま潰れてしまいそうなほどに痛むのでした。


愛することは、生きるに値するか。
否、生きることは、愛するに値することか。
愛と命は、どちらがより重要か。
究極の難問に責め苛まれながら、氷河王子は愛と苦悩の日々を過ごしておりました。






【next】