簡単すぎる条件には、罠がつきものです。
氷河王子が、カニ好きの妖精の真意を測りかねて、その眉をひそめた時。
氷河王子は、自分がいつのまにか北の国のお城の瞬王子の部屋にいることに気付きました。

どうやら、カニ好きの妖精が魔法の力で氷河王子をその場に運んだようでした
そこは、夜には頑丈な鍵が掛けられて、氷河王子の侵入を絶対に許さない禁断の部屋。
魔法でも使わない限り、夜にこの部屋に侵入することは、ルパン三世にだって難しいことだったのです。


「ほう。あれがおまえの真実の恋の相手か。まだ手足の細い子供のようだが……」
瞬王子のいるベッドの方にちらりと視線を投げて、そんなことを言ってから、カニ好きの妖精は氷河王子に向き直りました。
「この部屋で、明日の朝日が昇るまで、おまえたちが清い仲でいられたら、おまえの呪いを解いてやる」

「……貴様は俺を馬鹿にしているのか?」
氷河王子のすぐ目の前には、ベッドで健やかな眠りに就いている瞬王子の姿がありました。
初めて見る瞬王子の寝姿にごくりと息を飲みながら、氷河王子は、それでも倣岸に言ってのけたのです。
「これまで何年間もこの苦痛に耐えてきたこの俺が、たった一晩を耐え抜くことができないと、本気で思っているのか、貴様は」

カニ好きの妖精は、けれども、あくまで自分に勝算があると考えているようです。
彼は、すっかり氷河王子をみくびっている様子で、目許に嫌らしい笑いを浮かべました。
「しかし、こんなに近くで、こんなに無防備な状態の相手と過ごしたことはあるまい?」

「それが何だ。俺の自制心と忍耐力をみくびるな!」
「よかろう。では試してみよう。朝まで耐えられなかったら、俺の祝福通りに、おまえは死ぬ。カシオミニを賭けてもいいが、おまえは朝の光を見ることは二度とあるまいよ」

不吉な予言を口にすると、カニ好きの妖精は、瞬王子の寝室から姿を消してしまいました。
あとに、卑猥で下劣な笑い声の余韻だけを残して──。






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