カニ好きの妖精の姿が消えると、そこには氷河王子と瞬王子が二人きり。
室内には小さな灯りがひとつあるきりで、それは、瞬王子の寝台の枕許で、淡い光を放っています。
10歳の誕生日を迎えてからは、氷河王子は瞬王子と一緒にお昼寝することも禁じられてしまっていましたので、本当に数年振りに見る瞬王子の寝顔がそこにありました。

甘い寝息と、薔薇色の唇。
無防備に剥き出しの肩と、シーツの上の柔らかい髪。

瞬王子を抱きしめたいという欲望を初めて感じた時から数年。
文字通り、死線を越えそうになりながら耐えてきた数年間を、たった一夜で水の泡にするつもりは、氷河王子には毛頭ありませんでした。
全くありませんでした。
全然ありませんでした。

でも。
ちょっと触るくらいなら構わないだろう──と、氷河王子は思ってしまったのです。
それくらい、瞬王子の寝顔は、白い花のように綺麗で可愛らしかったので。

氷河王子が、瞬王子の頬にそっと手で触れると、その感触がくすぐったかったのか、瞬王子は小さな声を洩らしました。
「ん……」
意味のない、本当に小さな、溜め息のような声を。
その声の刺激的なこと。

朝まで我慢すれば、この瞬王子のすべてが氷河王子のものになるのです。
氷河王子の期待と希望(と△□)は、いやが上にも膨らんでいきました。
「瞬……。もう少し……もう少しの辛抱だからな」
瞬王子に──というよりは、自分自身に言い聞かせるために、氷河王子はそう呟きました。

まるで、その呟きに答えるように、瞬王子の唇から、氷河王子の名前が零れ出ます。
「氷河……」

それが、ただの寝言だということはわかっていました。
わかってはいても、氷河王子の胸は大きく高鳴ります。
瞬王子は、いったいどんな夢を見ているのでしょう。
もしかしたら、それは、氷河王子といだき合っている夢かもしれません。

そんなことを思い巡らせている氷河王子の心臓は、早鐘のように強く激しく速く、氷河王子の全身に熱き血潮を送り出し始めたのです。






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