北の国は、短い夏を見送ろうとしている頃でした。
瞬王子の身体を氷河王子の目から遮っているものは──覆い隠しているものは──薄い掛け布一枚きり。
身に着けている寝衣も、薄布でできた短衣のはずです。
それをちょっと確かめてみようと、掛け布を取り払うと、予想通り。
瞬王子の白い腕と、形よく すんなり伸びた細い脚が、氷河王子の視界に飛び込んできました。

「あ……ん……」
身体を覆っていたものが取り除かれ、空気に触れた感触が、瞬王子に溜め息を洩らさせます。
氷河王子は、瞬王子の唇に自身の唇を寄せずにはいられませんでした。
(キスくらいなら、いつもしてるんだしな)
自分に言い訳をしながら、氷河王子はそれをしました。

けれど、そうしたことは間違いでした。
氷河王子は、そうすべきではありませんでした。
瞬王子の唇のやわらかさが、氷河王子を優しく誘惑してきます。
そっと触れるだけのキスが、氷河王子の呼吸を荒ぶらせ、その身体を熱くします。
自分の身体の変化に気付いた氷河王子は、慌てて瞬王子の側から飛び退すさりました。

どう考えても、瞬王子のベッドの側にいるのは危険です。
瞬王子にもっと触れたいと騒ぐ自分自身をなだめすかし、氷河王子は、朝の光が射し込んでくるはずの窓と、瞬王子のベッドの両方を見ていられる部屋の隅に椅子を運んで、その椅子に腰をおろしました。

耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろ──。
氷河王子は、自分自身を強くきつく叱咤しました。
腕組みをして瞬王子と部屋の窓とを睨み続ける氷河王子には、時間が飴のように伸びているような気がしてなりません。

──1年、2年、5年、10年。
瞬王子の部屋に入ってから、氷河王子の主観では、とうに100年もの時間が過ぎ去っていました。






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