「なあ。どう考えても、悪いのは氷河だろ」
「ああ」
「当然の報いとして、弱い立場に立たされてるのも氷河の方」
「そのはずだ」
「なのに、なんで、瞬の方があんなに切羽詰ってるんだよ?」

氷河に何をされたわけでも、何かを言われたわけでもないというのに、ひとりで赤くなったり青くなったりしたあげく、まるで逃げ出すように、仲間たちの前から姿を消してしまった瞬の心理が、星矢にはどうにも理解できなかった。
これが瞬でさえなければ、『どっか、おかしーんじゃねーの?』の一言で済ませているところだったのだが、それが生死を共にして闘う仲間のこととなると、あっさり見放すこともできない。

「まあ、瞬は人を責めることに慣れてないし、こんなことになったそもそもの原因は、瞬に対する氷河の好意にあるわけだし──」
しかも、瞬に向けられる氷河の視線は、露骨なまでに嫌ら・・しい・・
瞬に対して何かを求めているのだということが、過ぎるほどにあからさまだった。

そして、氷河が欲しがっているものは、瞬がその気になれば、すぐにでも与えられるもの──なのである。
与えようと思えば与えられるものを与えずにいることに、瞬はもしかしたら罪悪感のようなものを抱いているのかもしれない。
瞬なら、そういうことも大いにありえることである。
問題はおそらく、瞬がそう考えてしまう人間だということを知っていながら、瞬を見詰めることをやめない氷河の方だった。

「でもさぁ、悪意や害意がなくてもさぁ、好きだったら何しても許されるってわけじゃないだろ。氷河がもの欲しそうなツラしてても、瞬には応える義務も何もないんだから、瞬はもっと毅然とした態度でいればいいんだよ」
「確かに、愛は犯罪行為の免罪符にはならないが……問題は、やはり、氷河が言うように、瞬が氷河を嫌えていない──ということなんだろうな」
「やっぱ、そーか……」

薄々そうなのではないかと思っていたことが、自分ひとりだけの思い込みではなかったことを知らされ星矢が、脱力したような嘆息を漏らす。
「瞬も悪趣味だよなー」
星矢の、それが正直な感想だった。

仲間たちの忌憚ない討論を聞くともなく聞いていた氷河は、瞬のために、そろそろ けりをつけた方がいいのかもしれないと思い始めていた。






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