裸体を氷河に抱きしめられてしまってからも、瞬は、どうしてこんなことになったのかがわからずにいた。
なぜ自分が、こんなことを氷河に命じる・・・ことになってしまったのかが、どうしても。

氷河があの時、突然乱暴を働こうとしたりせず、どんな言葉ででもいいから、瞬の意思を確かめようとしてくれてさえいれば、瞬は氷河にそうすることを許していたかもしれなかった。── 十中八九そうだった。
氷河がそれを確かめようとせず、強引に事を進めようとするから、瞬は思わず彼に抵抗(などという可愛いものではなかったが)してしまっただけなのである。

自分が、氷河に、それを望む──命じる──などという事態を、瞬はこれまでただの一度も考えたことがなかった。
というより、氷河とこういう行為に及ぶ自分自身を考えたことがなかった──考えないようにしていた。
その可能性に気付かぬ振りをしていた。
そんな個人的なことより、もっと大事なことを考えなければならないのだと、瞬はいつも自身に言い聞かせていた。
互いに大切な仲間同士でいられるなら、自分は・・・それ以上のことは望むべきではないとも思っていたのである。
氷河が瞬の意思を無視して無体に及ぼうとした、あの時までは。


ともあれ、氷河にそれを命じたのは瞬自身なのであるから、氷河がその命令を遂行しようとするのを拒む権利を、既に瞬は有していなかった。
瞬は、自身の身体のあちこちに触れ、忍び込み、意味ありげな愛撫をする氷河の手に耐えた。
恥ずかしくて、氷河の前から逃げ出したくなる衝動も、必死に抑え込んだ。
氷河の愛撫に勝手に反応していく自分の身体の変化を 泣きたい思いで耐え、気を緩めると唇から漏れ出そうになる喘ぎも溜め息も、懸命に喉の奥に飲み込んだ。
氷河が瞬の中に入り込んできた時も、瞬は、その衝撃を、固く目を閉じて耐えたのである。

ありとあらゆることに耐えているうちに、やがて瞬は、自分と氷河の接合部分を感じる感覚だけが鋭敏になり、自分の他の感覚──視覚や聴覚──が麻痺し始めていることに気付いた。

「痛いのか? 我慢してくれ」
氷河が、子供をあやすような口調で何ごとか言っているのを、ぼんやりと聞きながら、瞬は唇を噛み締めて頷いた。
瞬は、頷くしかなかったのである。
これは、瞬自身が命じたことなのだから。

──が。

「俺は気持ちいい。だから、おまえも我慢できるはずだ」
「え……?」
身勝手ともとれる氷河のその言葉を聞いた途端、瞬の身体からは急速に力が抜けていってしまったのである。
きつく噛み締めていた唇が、半開きになる。

氷河が気持ちいいのなら、僕は嬉しい──そう思った瞬間に、瞬の身体の奥のどこかで、衝撃的と言ってもいいほどに巨大な快感が生まれる。
そして、それは、瞬の身体の内側と外側を、圧倒的な速さと力強さで覆い尽くしてしまった。






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