身仕舞いを整えた俺は、俺の可愛い瞬の姿を拝むために、部屋を出て階下におりていった。
こういう時、集団生活をしているのは不便だ。
ここがアテナの聖闘士の合宿所みたいな城戸邸でなかったら、俺は瞬と二人きりで、キヌギヌの朝食を楽しめていたに違いないのに。

ああ、そーいや、平安時代には、『三日夜の餅の儀』とかいうイベントがあったらしい。
昔は、一夜限りの関係は単なる浮気・遊びと見なされたから、男が初夜から三日間女のところに通って初めて、正式に婚姻成立ということになる。
その三日間のお勤めが滞りなく済んだら、三日目の朝に祝いの餅を食いながら、成婚を祝ってどんちゃん騒ぎをしたとかしないとか。
俺も、あさってあたり、瞬のためにシュークリームでも用意しておくことにしよう。

と、まあ、そんなことを考えながら、俺は、城戸邸の1階にあるダイニングルームに入っていった。
が、てっきりそこで拝めるだろうと思っていた瞬の姿を、俺はその場に見付け出すことができなかった。
代わりに、見ても少しも嬉しくない星矢と紫龍の二人が、ダイニングテーブルに着いてコーヒーをすすっていた。

「瞬は?」
「まだ、おりてきてない」
「──そうか」
考えてみれば、今朝という朝は、お邪魔虫の星矢や紫龍がいるところより、二人きりになれる場所で過ごすべき朝だ。
瞬は、それを望んでいるに違いない。

そう考えて、俺は、星矢たちが陣取っているダイニングルームを後にしようとしたのである。
が、俺が星矢たちに背を向けたのとほぼ同時に──まるで そのタイミングを見計らっていたように──星矢が俺を引き止めてきた。
聞き捨てならない言葉で。

「おまえは来るなって」
「なに?」
「瞬、一度、おりてきたんだ。で、もしかすると、おまえが瞬の部屋に行こうとするかもしれないから、その時にはおまえを来させないようにしてくれって、頼まれた」

「…………」
それはいったいどういうことだ?
瞬は、この記念すべき美しい朝を、星矢だの紫龍だののツラのないところで過ごすために、自分の部屋で俺を待ってくれている──んじゃないのか?

「……瞬は、身体の具合いが悪そうにしていたか?」
「それ訊かれたら、平気だから心配すんなって答えといてくれって」
なら、なぜだ。

瞬の行動を訝りながらも、その時、俺はまだ、瞬は俺と顔を合わせるのを ただ恥ずかしがっているだけなんだと思い込んでいた。






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