愛と感動と歓喜と感激の夜。
瞬は、俺の下で、ひたすら初々しかった。
あれがフツーの女で、正真正銘の処女だったとしても、俺は、『わざとらしくカマトトぶるな!』 と腹を立てていただろう。
それが瞬でなかったら。

ああ、そう言えば、俺の理性がぷっつんしたあたりから、俺は、瞬がどんなふうだったかを全く憶えていない。
瞬の肌の感触や瞬の唇の感触や瞬の中の感触は鮮明に憶えているが、他のことは何も。
瞬とつながって、一つになって、俺と瞬が実際には別個の存在だという認識が曖昧になったあたりから、俺は本当に何も憶えていなかった。
憶えているのは──そう、それこそ、瞬と一つになれた感動と歓喜と感激だけだ。

もしかしたら、瞬も俺と同じだったんだろうか?
自分と俺の境目がわからなくなるくらい、自分の思惟もわからなくなるくらい、瞬は俺を受け入れてくれていた──んだろうか?
……そういえば、俺がそうしろと言ったわけでもないのに、勝手に身体が動くとか言って、瞬が泣きながら腰を使っていたような──そんな場面の記憶がおぼろげに、俺の中に残っている。
それは、あの最初の夜以前の、俺の夢の中での出来事だと思っていたが、あれはもしかしなくても実際にあったことだったのか……?

いずれにしても、それは、俺的には無問題だ。むしろ大歓迎。
そうだ、だから俺は、俺と瞬は身体の相性がいいんだと調子に乗って、バックだの座位だの何だのを試してみたくなって──実際試した。
予想以上に、それは良かった・・・・

しかし、それはいいことだろう?
痛いだけのことと覚悟して臨んだ最初の夜が、案に相違して極めて快適だった──っていうのは。
俺の愛と感動と歓喜と感激の夜は、瞬にとっても最高の夜だったというだけのことだ。
なのに、その最高の夜が、瞬の中では、『恥ずかしい』を通り越して『怖い』ものになってしまった。


「俺は、どうすればいいんだ?」
星矢に訊いてもどうなるものでもない。
それはわかっていたんだが、俺は訊かずにはいられなかった。

「まあなぁ。おまえのそのツラ見るだけで恥ずかしくて怖いとか言ってたし」
「俺はそんなに助平な顔をしているか」
「自覚がないのは危険なことだぞ、氷河」
脇で星矢の報告を聞いていた紫龍が、忠告なのか与太なのかの判断に苦しむ口を挟んでくる。
俺は、奴に反論する気も起こらなかった。

『疑心暗鬼を生じる』とはこういうことを言うんだろうか。
俺は、瞬もまた俺を好きでいてくれるという事実を忘れていた。
好き合ってる者同士がそれをしたら、それは当然、気持ちのいい事態になるに決まっているのに、自分の不手際ばかりを心配していた──愚かなことに。

だが、現実は全く逆だった。
逆だったが、事態が好転したわけでもない。
俺は結局、何をどうすれば、瞬が俺を怖がらなくなってくれるのか、わからないままだった。






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