ところで、そういう類の派閥というものは、大抵は、本人の意思を置き去りにして形成されるものです。
要するに幻影なのです。実在はしません。
氷河王子は、どこぞの子爵家の令息とアヤしい仲なんかではありませんし、瞬王子はどこぞの近衛隊隊長と話をしたこともないのです。
周囲の人間がモーソーをたくましくして、勝手にわいわい騒いでいるだけだったりします。
真実はただ一つ。

確かに、氷河王子は、とある男の子と恋仲でした。
瞬王子も、とある青年が大好きでした。
二人の王子の恋の相手が同性だというのは事実で、これは、オロシヤ国国民の炯眼と言わざるをえません。
氷河王子は攻めでした。
これは、氷河王子攻め派の炯眼です。
瞬王子は受けでした。
これも、瞬王子受け派の炯眼です。

問題は、氷河王子の恋の相手が瞬王子で、瞬王子が大好きな相手が氷河王子だということだけだったりします。
実は、幼い時から同じ王宮内で共に育った二人の王子様たちは、それは深く、それは強く、互いに愛し合っていたのです。

なのに、オロシヤ国の国民は、二人が反目し合っているものと決めつけていました。
何と言っても、二人は次期国王の座を巡ってのライバルでしたから。
氷河王子擁立派は、氷河王子の前で、臆病者の泣き虫のと、瞬王子の悪口を言います。
瞬王子擁立派は、瞬王子の前で、我儘の傍若無人のと、氷河王子を非難します。

彼等は、そうすることが、自分の擁立する王子様へのご機嫌とりになると思い、自分が属する派閥の勢力拡大に役立つと思っているのです。
当の二人の王子様たちの気持ちなんて考えもせずに、派閥は暴走するのです。

自分の恋人を悪く言われる二人の王子様たちは、いつもそれを悲しく思っていました。
ただ一つの救いは、二人の王子様たちが周囲の声に惑わされることがなく、自分の判断力を持ち、また、それを信じているということだったでしょう。

これは、とても大切なことです。
そして、難しいことです。
二人の王子様はその難しいことができるのですから、氷河王子が次期国王になっても、瞬王子が次期国王になっても、オロシヤ国の未来は安泰。
それだけは確実でしょうね。






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